自転車ホイールの振れ取りを自分でする : 必要な最低限の方法
いきなり脅かすようですが、ホイールの振れ取り調整は、自転車修理の中でもハイレベルの知識と技術が必要だとされています。
そんな先入観もあり、ニップルひとつ回すことも恐ろしく感じているサイクリストは多いはずです。
果たしてそうなのでしょうか?
今回は、「シロウト」がどこまでできるのかを検証してみたいと思いますが、実際に挑戦しなくても結構、知っておくだけでもサイクリストとしての幅はひろがることでしょう。
▲ICAN 15周年記念大感謝セール 2024年最大級セール!
1 「なんちゃって」振れ取りに必要な工具
本格的な振れ取をしようと思えば、振れ取り台は欠かせないものです。購入には大枚をはたく必要があります。安いものは、重量と剛性が足らず不安定です。
しかし、ここでは、簡単な振れ取りの対処を想定していますから、車載のままやってしまおうという話です。
方法は簡単、自転車の天地を逆にして、サドルとハンドルで車体を支えると、ホイールを空転させられる状態になります。これで簡易振れ取り台の出来上がりです。
しかし、さすがに工具は必要です。次の2点です。
- ニップル回し: 小さな工具です。価格は安いので、高品質なものを選んでください。
- スポークテンションメーター: スポークのテンションを測るために使用します。価格は数千円程度ですので、サイクリストたるもの、持っておいて無駄にはなりません。目安となる数値が得られる程度のもので充分です。
※ 実は、場合によっては、もうひとつ必要となる簡単な工具があるのですが、それについては後述します。
2 ホイールの振れ取りに必要な知識
いよいよ本題に入ります。
① これは、ホイールを上から見た写真です。
実際には、車載のホイールにはタイヤが付いていますので、ホイールの振れは少し見にくいです。面倒をいとわなければ、タイヤを外した状態で行うのがいいでしょう。
ニップルは、リム穴の向こう側、スポークの根元にのぞいています。下の写真の中央付近です。
② 基本的な原理は次の通りです。
- ホイールが右側に振れる→ハブの左側から生えているスポークを締める
右側から生えているスポークを緩めても同じ効果が得られますが、基本は「締める」です。ホイールが左に振れるときは逆の側を締めます。
- ホイールが縦に振れる→ホイールが縦に出っ張る部分のスポークを締める
ただし、右を締めたら、隣の左も同様に締めて、左右のバランスを取るのがコツです。
車載ではわかりにくい調整かもしれません。もっとも、縦振れの出ているケースはあまり多くないと思われます。
では、スポークを「締める」「緩める」にはどうすればいいのでしょう。
「ニップルを回す!」 それは半分正解ですが、ではどちら側に回しますか?
正解は、リム側からハブを見て、ニップルを右に回すと締まる(=テンションが強まる)、です。通常のネジと同じですが、つい反対側に回しやすいので注意が必要です。
3 ホイールの振れ取りの具体的な手順
原理がわかったところで、いよいよ実際に振れ取りをやってみましょう。
① ホイールを回転させ、振れの様子を観察します。リムブレーキの車体なら、ブレーキシューがよい目印になります。ディスクなら、チェーンステーやフロントフォークが目印になるでしょう。1~2か所がポコッと振れるような症状は比較的軽微ですし、ここで想定したケースです。慣れないうちは、振れている箇所に目印としてテープを貼って作業するとわかりやすいです。
② リムが右に振れていると想定します。その箇所に一番近い左側のスポーク締めるために、いよいよニップルを回します。どれくらい回すかがわかりにくいところです。試しに1/4回転回してみます。この程度なら、大きくバランスが崩れる恐れはありません。慣れると、もっと回してみてもかまいません。また、ニップルを回す箇所は、一点だけとは限りません。その周辺も少し控えめに回してやるのがコツです。
(ニップル回しでなく、リムの穴からマイナスドライバーを差し込んでも調整できますが、初心者にはニップル回しが扱いやすいです)
回した後、すぐにホイールを回転させて、振れの状態を確認します。振れが取り切れていないようなら、同じ工程を繰り返します。(徐々にニップルの回し方は少なくしていきます) 意外にすんなりと振れがおさまることに快感を覚えるかもしれません。この作業は経験がモノを言いますが、原理を把握して作業を行なう限りは、いずれ振れはおさまります。
おさめる振れの幅は1㎜というのが目安ですが、実際にやってみると、そんな単純なものでもないことに気付くでしょう。シロウトたるもの、どこかで妥協することが正しい道です。
作業を終わったホイールは、少し力をこめてスポークを2~3本ずつ握り、全体をなじませてやりましょう。後々狂いが出にくくなります。そのあと、もう一度回転をチェックしておきます。
③ 振れが小さいものはこのようにうまく対処できますが、激しい振れの場合は経験が必要になります。基本的に、先ほどと同じ作業を行なうのですが、センター(ハブ左右の中心にタイヤのトレッドの中央が一致する)が狂うことがありますし、こうなるとセンターゲージなどの工具が必要となります。残念ながら、当記事の趣旨の範囲を超えてしまいます。
④ ここで気になるのはスポークのテンションです。ニップルを締めるばかりでは全体のテンションがどんどん高くなってしまいかねません。そこで活躍するのがテンションメーターです。あらかじめ調整前のテンションを測っておきます。すべてのスポークについて行ないます。大体の中心値がつかめ、±3~5程度の誤差が普通にあることがわかるでしょう。
よく、スポークをはじいて、音の高低でテンションを判断しているのを見かけますが、よほどの絶対音感の持ち主でない限り、シロウトはテンションメーターに頼るのが無難です。
できれば、ニップルを動かすたびにテンションをチェックし、想定範囲の数値に収まっていることを確認しながら行なうとよいでしょう。あまり高くなりすぎるようであれば締めるのでなく、隣の反対側のスポークを緩めることで調整します。
なお、左右にオフセットしたホイールの場合は、スポークテンションが左右で違うことがあることは知っておいてください。
⑤ エアロスポークの場合は、もうひと手間必要です。エアロスポークの断面形状は真円でなく、扁平な形をしています。きしめん状と言ったらいいでしょうか。これに、ニップル回しで力を加えると・・なんと、ねじれてしまうのです。例外なく。
これを修正するのに「スポークホルダー(スポークキー)」という工具があります。使うのはニップルを回す時でなくても、あとでOKです。ニップル近くのスポーク部に差し込み、回すことで簡単にねじれが取れます。他の工具でも代用可能かもしれませんが、スポークに傷を付ける可能性がありますし、千円前後で入手できるので用意しておくことをおすすめします。(パークツール製の長いものより、下の写真のようなタイプが使いやすいかも知れません。鉄の構造材に厚い樹脂でカバーされています)
4 最後に
「なんちゃって」振れ取りの解説のつもりが、つい熱がこもってしまったようです。
「むずかしくて自分にはムリだ」と思ったか、「なーんだ、出来そうじゃないか!」と思ったか、どちらでしょう?
しかし、実のところ、ここまでの勘所をつかみさえすれば、本格的な振れ取りも難しくはないと思います。そして、さらには、自分で手組ホイールを造ってしまう、という尊敬に値する行為も夢ではないのです。
「自転車の世界は、なかなか奥が深いな」 とニンマリしているあなたは、すでにこちらの世界の仲間です。ICANと一緒に奥義をきわめましょう! Ⓗ
【参考画像 : ICAN出荷時ホイールの振れ取り】
【ICANロードホイールラインアップ】
こちら→カーボンホイールホイール